12月2日に発生した笹子トンネルの天井落下事故から既に10日以上経過した。 しかしながら、原因調査に関する報告がまだ発表されていない。
この事故後も日本中で高速道路のトンネルを通過せざるを得ない方が沢山いるのだから、中間報告でも良いから何らかの見解・傾向等の分析を早く
発表すべきだと思う。
その一方、この事故が発生した直後から日本橋梁、ピーエス三菱を始めとした橋梁工事関連銘柄の株価が急上昇したとのニュースは聞いていても
不愉快に思う。 悲惨な事故を金儲けのチャンスと見る投資家達の冷徹な動きは崩落事故で命を奪われた方々を思うと本当に腹が立つ!!
この事故は人身事故の影響以外に、日本経済の重要なインフラである中央高速道路の流れを大きく停滞させてしまい、膨大な経済的損失を
国民に与えてしまった。 しかしその被害額を一企業、一個人がNEXCO中日本の責として請求することは出来ない。 今回の事故についてはNEXCO
中日本の責任は大きいが、このレベルの安全管理認識は、東京電力を筆頭とした日本中の天下り集団が持つ放漫経営体質に共通して存在している
のではないかと思いたくなる。
首都高速道路株式会社も同様に違いない。 本来はとっくの昔に償還が終わっている筈の路線を無料にするどころか、距離別料金方式の導入に伴い
結果的に値上げしている。 それなのに環状部分とその流入部分の渋滞は解消されていない。
そうだろうな。 首都高全体が大渋滞で駐車場みたいに車で一杯になれば大儲けに違いない。
その首都高も老朽化が進み、約10万箇所の補修が
必要である(特に羽田線とか環状線の高架部分が危機的な状態)との調査結果が発表された。
しかし、驚くことにこれらの改修費用として1兆円を要するが資金が大幅に不足しているので再度の値上げが検討されているという。 今まで、われわれ
利用者が高い通行料を払ってきたのに、その金は維持管理に必要な費用を抑えて新規の路線建設に使われて来たツケが廻ってきたのだ。
これも東電経営者と同様に「誠意の無い放漫経営の成れの果て」と言われても仕方が無い愚策と思う。 イケイケどんどんのパフォーマンスが優先され、
安全管理を軽視して来た成れの果てがこれだ。 (尤もこの問題は政治主導で拡充してきた国道・県道・市道の維持管理についても同様で、将来は
一般公道の走行に支障が出てくることは確実と思われる)
首都高羽田線の海上部分の劣化 首都高向島線の橋脚にヒビ
さて、笹子トンネルの事故の話に戻るが、とにかくマスコミが報道している断片情報しかない。 ここで、多分誰もが感じるであろう疑問を列記し、関連した
報道と照らし合わせてみる。
【疑問】
@ アンカーボルトはどの様な構造で使われているのか?
A 何故アンカーボルトが抜けたのか?
B 何故、連鎖的に沢山のボードが落下したのか?
C 施工上のミスなのか? それとも保守を怠った為なのか?
D 設計に問題は無いのか? (何故かマスコミには設計ミスの可能性については報じられていない)
【報道内容】
@
アンカーボルトはどの様な構造で使われているのか?
NEXCO中日本の発表では、笹子トンネル内部、約140m区間に崩落したコンクリート板(1枚約1トン)は約330枚。これらは天井裏に
換気用スペースを作るために、1枚当たり6本の鋼鉄製「アンカーボルト」でトンネル最上部のコンクリート壁とつながれていた。
「笹子トンネルのアンカーボルトには溝があり、これを天井部のコンクリート穴にねじ込んでいます。あらかじめ穴の奥には高性能接着剤入りのカプセルを
差し込み、これが割れてアンカーボルトとコンクリートが強固に一体化します。この施工法はケミカルアンカーとも呼ばれ、トンネル以外にも多くの構造物
の吊り天井で利用されており、特に珍しいものではありません」(NEXCO中日本の広報課)
A
何故アンカーボルトが抜けたのか?
中日本高速によると、アンカーボルトは鉄製で、直径1.6センチ、長さ23センチ。 天井部コンクリートに穴を開け、穴に樹脂製接着剤を
入れて13センチ分を差し込み、二本でつり金具を固定し、1枚約1.2トンの天井板や隔壁(中壁)などを支える構造だった。
この設計は10倍以上の荷重にも耐えると計算されていたが、構造物のどこかに想定外のストレスがたまり、12月2日のある瞬間に耐久
限界を超えたとしか考えられない。
または、アンカーボルトの穴に充填されている接着剤が何らかの原因で劣化して抜けやすくなった可能性もあるので併せて調査している。
B
何故、連鎖的に沢山のボードが落下したのか?
もしアンカーボルトの劣化と破損がコンクリート板落下の原因なら、140mの限られた場所だけで瞬間的な破壊が起きたのは不自然だと疑問視する
専門家は多い。そして本当の原因究明は中央自動車道大月JCT〜勝沼IC開通の2年前、笹子トンネルが先に完成した1975年にまでさか
のぼるべきだという意見も出てきた。防災建築工学の専門家・三舩康道氏(工学博士、一級建築士)は、こう説明する。
「もう記憶に薄いでしょうが、1996年から98年にかけて山陽新幹線の路線各地で高架橋の床板コンクリートが次々にはがれ落ちる事故が起きました。
それはコンクリートの品質の悪さが原因で、山陽新幹線の高架橋を造った1965年から75年は高度経済成長時代にあたり、全国的な建築ブームで
建築資材が不足していたんです。特に西日本ではコンクリートに混ぜる骨材の小石や砂利が手に入らず、ほとんど塩抜き処理をしていない海砂が大量に
使われました。その結果、コンクリート内部の鉄筋がさびて膨らみ、常識外の早さで構造物の損傷が起きたのです」
笹子トンネルもまた、山陽新幹線の高架橋と同じ1965年から75年にかけて造られた。しかも、この年代の建設業界で起きた問題は、コンクリート量の
2倍以上を必要とする骨材の不足だけではなかった。コンクリートの需要急増に合わせて大手メーカー各社が新しい大量生産方式を導入したため、短期間
で 骨材がボロボロに分解して構造物を劣化させる「アルカリ骨材反応」が起きやすいコンクリートが全国の建築現場へ供給されたのだ。
笹子トンネルでも、その欠陥コンクリートが使われた可能性は高い。12月4日に笹子トンネル内部へ入った国交省の「トンネル天井板の落下事故に関する
調査・検討委員会」も、「アンカーボルトの大部分は天井から抜け落ちたが、どれも目立った腐食などは見られず、今後はコンクリートの劣化についても調査と
分析を行なっていく」と報告している。
この時限爆弾のようなトラブルの発生を、実は1980年代から正確に計算予測していた学者がいる。1999年に『コンクリートが危ない』(岩波新書)
を発表した、小林一輔氏(東大名誉教授)だ。残念ながら小林氏は3年前に亡くなったが、山陽新幹線・高架橋の落下事故当時に、週プレの取材に
対して次の衝撃的な予測を述べてくれた。
「1965年から75年頃に生産された欠陥コンクリート製の建造物は、2011年から15年頃に深刻な破損が起き始め、必ず大きな社会問題に発展
します。
また高度成長期時代のコンクリート建築物の脆弱さは、建材の問題だけではありません。当時の建設現場で横行した水増しコンクリート(シャブコン)など、
数々の手抜き工事も危険な時限装置になるでしょう」
この小林予測どおり、今回の笹子トンネル事故では、これまで隠されてきた衝撃の事実が明らかになった。大月〜勝沼間開通直前の1976年11月に、
会計検査院が旧・日本道路公団総裁に対して「工事監督不行届による笹子トンネルの強度不足」を指摘したのだ。その指摘の中でいわれた規定の厚さ
の約半分しかコンクリートが打たれなかった工事箇所こそが、トンネルの天井部分だった。
今回の大惨事の原因はアンカーボルトではなく、コンクリートの欠陥と手抜き工事だったのか? 今後の調査結果に注目したい。
C
施工上のミスなのか? それとも保守を怠った為なのか?
施工上の問題か否かはコンクリートの劣化も含めて現在調査中。 また、ハンマーでたたいて劣化を調べる「打音検査」を笹子トンネルでは2000年
を最後に行っていなかったことが判明。 目視検査のみを行っていた。
D
設計に問題は無いのか?
何故かマスコミには設計ミスの可能性については報じられていない。
【ここで私の やじうま的な私見を述べます】
(1) いかなる理由があるにせよ、通常の感覚では1トン以上もある隔壁と天井板が140mもの間隔で連鎖的に落下するのは明らかに異常である。
この点だけを考えてもは設計ミスと断言できる。
通常は、一本の吊り金具が破壊しても、他の吊り金具がこれを補い、隔壁と天井板を支える構造であるべきである。 いわゆるフェイルセーフの
考え方である。
今回の事故のケースではフェイルセーフどころか、隣の天井板とつり金 具を共有する構造の様だ。
発表された情報によると・・・・
吊り金具の間隔=1.2m,
天井板の奥行=1.2m ⇒⇒⇒ 吊り金具の間隔と天井板の奥行きが一致 ⇒⇒⇒ 吊り金具1本で4枚の天井板の角を支えていると理解できる。
天井板の幅=5m,
天井板の重さ=1.2トン、
要は吊り金具(アンカーボルト2本で固定)が1本抜けると、その左右と前後の計4枚の天井板落下を誘発させる構造なのではないか?
トンネルの様な過酷な環境(振動、変形、トンネルアーチのコンクリート欠損及び温度ストレス。 酸、アルカリ等による侵蝕、換気ダクトが長ければ
その気圧変動による圧力)の場合は特に留意しなければならない点である=>吊り金具の本数は4倍必要と思う
(2) 吊り金具はそれぞれ2本のアンカーボルトで固定されているので、通常は吊り金具が外れることはない筈だが、2本のアンカーボルトのうち1本は
施工時または大分前から固定力を失っていて、事故直前は残りの1本でギリギリの状態で支えていた可能性も否定できない。
アンカーボルトの固定方法だが、下図の様にアンカーボルトの差込方向と加重がかかる方向が同じ方向、すなわちどちらも垂直方向に向いている。
しかもボルトを支えているのは16mm径のボルトの山部分、即ち数mmだけである。
なおかつ、ボルトとペアであるナットは無く、ケミカルアンカー方式の充填接着剤である。 穴の中で圧力を横方向にかけて抜けにくくすると言えども、
私だったら施工後の経年劣化やコンクリートの劣化を考えると怖くてこんな方法は取れない。 多分、ボルトを斜めに打ち込むか、加重をトンネルの
天井に沿って丸く分散して縦壁で支えるアーチ状の構造体に天井板を乗せて固定する方式でないと安心出来ない。
(3) 目視検査は問題外だが、問題発生後もボルトの緩みを原始的で定量的でない方式のトンカチ打音検査で危険度を判断していることに呆れて
しまった。
NEXCOという会社にはキチンとした技術者がいる筈だ。 天下り経営陣は彼らの声に耳を傾け、定量的な数字が測定結果として得られ、
かつ記録できる非破壊検査方式等を採用すべきだ。
いずれにしても、限られた情報の中での推測なので、正式な事故調査委員会の発表を待つことにします。 どうなることやら・・。
写真と情報はNHKとFNNニュースから引用しました。