国土交通省主催の第4回トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会が3月27日に開催され、その議事および配布資料が国土
交通省のホームページに掲載されている。
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/tunnel/
内容を見ると、下記の議事要旨の通りかなり明確に問題点を絞り込んでいるし膨大な配布資料も公開されているので、我々が見ても比較的
理解しやすい。 事故後、4ヶ月経過してようやく進歩が見られた印象を受ける。
但し、未だに「落下原因はまだ明らかとなっていない」とし、更に議事要旨の中でも原因・今後の対応策に関する記述方法が曖昧であり、見ていて
イライラして来る。
中でも『まず、マクロとして設計・施工段階から、事故に繋がる要因が内在していた可能性がある。』とは一体何を指しているのか全くわからない。
『そもそもの設計および工法にミスがあった』と一義的に記述出来ない事情があるのは分るが、こんな中途半端な表現方法が公式な調査委員会の
議事録としてまかり通る様では今後の安全対策の厳格運用に不安が残る。
下記は、第4回調査・検討委員会の議事録と配布資料の一部をメモとして記載しました。
YM記
議事要旨 (HP添付のPDFより)
○天井板落下の原因について
<事故原因の着目箇所について>
・ 覆工コンクリート、ボルト鋼材、地山変位は問題ないと考える。
・ 事故原因の着目箇所は、ボルト孔の設計・施工も含めた接着部まわりに絞り込んで良い。
・
CT鋼が介在することによる設計・構造も含めた影響(ボルトに作用する荷重への影響など)について、さらに検討すべき。
<ボルト接着部まわりについて>
・ ボルト孔の設計・施工も含めた接着部まわりの課題については、製品カタログの内容、特記仕様書や設計報告書など、複数要因を総合的
に捉えて整理すべきではないのか。
・ まず、マクロとして設計・施工段階から、事故に繋がる要因が内在していた可能性がある。
<接着部まわりの経年影響について>
・ 不飽和ポリエステル樹脂に加水分解(≒劣化)は確認されており、付着力低下に一定の影響を及ぼしたと考えられる。
・ 疲労という観点からは、空気力の変動(換気施設の稼働や大型車通行による影響)による繰り返し荷重が影響を及ぼした可能性がある。
<中日本高速道路株式会社の点検体制について>
・ 点検計画を変更した経緯など、個々に見れば理由はあったが、結果として補修履歴の保存体制の不備や、近接点検をL 断面天頂部ボルト
に対し、12年間未実施であったという事実は、不十分と言わざるを得ない。
○再発防止策について
<既存の吊り天井板>
・ 常時引張り力を受ける接着系ボルトで固定された既存の吊り天井板については、換気方式の変更の可否、周辺交通への影響等を考慮し、
可能ならば、撤去することが望ましい。
・ 存置する場合は、第三者被害を防止するための措置として、バックアップ構造・部材を設置すべき。
・ 上記2点の対策が完了するまでは、点検頻度を増やすなどのモニタリングを強化すべき。
・ 点検にあたっては、全ての常時引張り力を受ける接着系ボルトに対して近接点検(近接目視、打音及び触診)を行うとともに、少なくともいく
つかのサンプルで適切な荷重レベルでの引張載荷試験を実施すべき。
<その他の吊り構造物>
・ 常時引張り力を受ける接着系ボルトで固定されたその他の吊り重量構造物については、第三者被害を防止するための措置として、暴露
環境を考慮し点検頻度を増すなどのモニタリングの強化について検討するとともに、バックアップ構造・部材の設置などを検討すべき。
配布資料
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/tunnel/doc4.html
資料11 天井板落下の原因に関する論点整理 (PDF 資料11)
1.事故原因の着目箇所について 資料11
■ 覆工コンクリートやボルト鋼材、地山変位に問題は見あたらなかったことから、事故原因の着目箇所を、ボルト接着部に絞り込んでよいか。
・天井板と隔壁板は、CT鋼を介して覆工コンクリートにボルトで固定。隣り合う天井板等を連結した結果、天井板やCT鋼は約140m
に渡り、連続して落下。
・覆工コンクリートは、内部に一部空隙が存在したが、全体として必要な強度があることを確認。
・ボルト鋼材の引張強度は、破断、降伏いずれも設計値を上回っていることを確認。
・内空変位計測等の結果、地山変位は発生していないと思われる。
2.ボルト接着部の設計・施工について
■ 設計・施工段階の要因が、ボルト接着部に与えた影響をどう整理すべきか。
■ トンネルが35年間機能した事実を踏まえ、ボルト接着部の定着長と天井板落下との関係について、どう評価すべきか。
・コア抜き試験の結果から、接着剤のボルト先端残留による回り込み不足を確認。
・施工当時の特記仕様書、設計報告書、設計図、製品カタログの数値などを確認。
・
引抜き試験の結果、引抜き抵抗力と接着剤の定着長との明らかな相関を断じることはできないものの、総じて引抜き抵抗力が低い
ボルトの接着剤の定着長は、全体の平均より短かった。
3.接着剤の経年による影響について
■ 接着剤の付着力に影響を与える経年要因として、検討すべき項目は何か。
■ 接着剤の加水分解は、ボルトの引抜き抵抗力に影響を及ぼしたと考えて良いか。
・赤外線分光分析の結果、接着剤は不飽和ポリエステル樹脂であることを確認。
(←米国がBig Dig事故を踏まえ使用を禁止した速硬型エポキシ樹脂とは異なる)
・接着剤が、部分的に加水分解によって成分変化していることを確認。
・
一般的知見から、経年による影響要因としては劣化、疲労、クリープ等が考えられる。
4.中日本高速の点検体制について
■ (落下原因はまだ明らかとなっていないが)これまで判明した事実を踏まえ、中日本高速の点検体制を、どのように評価するか。
・ 過去の点検により得られた知見が、その後の点検に十分反映されていない。
・652箇所の補修形跡を確認したが、具体的な補修記録は確認できなかった。
・2000年以降、L断面天頂部のボルトについては、近接点検がされていなかった。
・2001年に実施したボルト引抜き試験(4本)で、定着不足も確認されたが、その後の調査・点検に十分反映されていない。
再発防止策に関する措置の論点整理
1.各種調査から確認できた内容
再発防止策に関する措置の論点整理
・昨年12月に実施した緊急点検(近接目視・打音・触診)の結果、接着系ボルトの吊り天井板を有するトンネルについては、笹子トンネルを除き、
不具合は限定的であった。(「異常なし」もしくは不具合の数が「数箇所程度」。他方、笹子トンネルは1,000箇所超)
・今般、笹子トンネルで実施した、接着系ボルトの「打音試験(近接目視・打音)」と「引抜き試験」の結果を分析したところ、接着系ボルトについては、
1)近接目視・打音で、抵抗力をほぼ喪失したボルトは確実に把握できること、
2)引抜き抵抗力の強弱までは、把握に限界があること、が確認できた。
・また、設計面では、これまでの調査・検討委員会での議論を通じて、
1)CT鋼を介して天井板を吊す構造では、極めて点検しづらい特性であること、
2)バックアップ構造の機能を有していなかったこと、などの課題も確認できた。
2.再発防止策に関する措置の論点整理について(案)
昨年12月に実施した緊急点検に追加して実施すべき事項。
(1)笹子トンネルと同種類似(接着系ボルトの吊り天井を有する)既設トンネルについて
■
接着系ボルトの吊り天井板を有するトンネルについては、第三者被害を防止するため、どの様な措置を講じるべきか。
■
上記措置を講じるまでの間、構造的な特性を踏まえて点検頻度・方法をどの様に実施すべきか。また、実施に当たり留意すべき点は何か。
(2)接着系ボルトで吊している重量構造物について
■
なお、上記トンネルとは別に、接着系ボルトで重量構造物を吊している場合についても、第三者被害を防止する措置を講じるべきか。
・参考資料2 接着系アンカーボルトの強度発現原理等に関する既往の知見 (PDF 参考資料2)
6.接着系アンカーボルトの強度に与える影響(まとめ)