ようやく528日に国土交通省主催の「第5回 トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会」が開催され、その検討資料並びに「まとめ」と思われる文書が529日になって同省のホームぺージに掲載された。

5回当日の28日には、時事通信ならびにNHK Webニュースでもその主旨について配信があったので、メモとして併せて本ぺージに記載しておく。

内容的には、やはり設計施工と維持管理についての分析と問題提起に終始しているが、今回ようやく具体的原因と思われる分析結果が発表されたのは若干の進歩と思われる。

それによると

@   覆工コンクリートと接着剤樹脂界面周辺において、無数の微細な内部き裂や空隙が観察された。

A   笹子トンネルにおける打音試験では、付着長や引抜強度が所定の値以上であるかどうかまでは把握できないことを確認した (トンカチ検査では駄目)

B   隔壁板に作用する水平方向の風荷重がCT鋼に伝達され、CT鋼を変形させることにより天頂部接着系ボルトに生じる引張力を設計上考慮していなかった。

C   中日本高速の笹子トンネル天井板に対する事故前の点検内容や維持管理体制は不十分であったと言わざるを得ない。

 

との4点が新しく記載され 『今後、国並びに各道路管理者は、以上を教訓に確実な維持管理等に係わる仕組み、実施体制の整備を図っていくべきである。』と締めている、

検証レポートは、得られた物的証拠及び管理情報の検証/分析とそれを裏付ける高度な技術的な試験結果を持って作成され、内容的には ほぼ合格と思われる。

別の言い方をすれば、誰もが納得するような事象と関連する分析結果を集めて合格の判定が得られる範囲で纏められた巧みなレポートであるとしか思えない。

人的要因および管理上/施工上の事故発生原因をもっと突っ込んで欲しかった。アチコチの顔色を伺って纏めた様な気がする。

もう一度『二度とこの様な大事故を日本中のトンネルで発生させない為にはどうするか?』に立ち返って人の顔色など無視して真実を追究して纏めて欲しかったと思う。  

まあ、それはこれからの議論の予定かも知れないので、ここで愚痴を書いても仕方がない。 

 

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 531日管理人追記

                       気になって仕方が無いので管理人の鬱憤を晴らす為に上記4項目の報告について持論を少々追記することにした。

 

@   はアンカーボルトと接着剤、コンクリートの接合面に問題が観測されたと言うことだ。今頃まことしやかに説明されると、学識経験者と建築会社は今まで何を調査していたのかと腹が立ってくる。 

こんな事は事故直後でも殆どの人が可能性として心配の対象項目であったのをご存知か? 今回の調査でアンカーボルトのネジ山部分の不飽和ポリエステル樹脂に加水分解とクラックが入っていたとあるが、せいぜい数ミリの部分の強度に依存した設計自体がおかしい!! アンカーボルトはネジを締め込むことにより、ボルトの横方向に張力が発生するので強度があるとの事だが、肝心の境界面がボロボロでは保持強度が低下するのはアタリマエダ!!

この件は素人の自分でも1215日付の【ここで私の やじうま的な私見を述べます】項目(2)で心配していた事そのものだ。これは素人と言われる一般の皆さんも指摘していたことを専門家も知らなかったのだろうか?

 

A   これも同様に【ここで私の やじうま的な私見を述べます】項目(3)で心配していた打音検査が不十分だと言うことだ。 当たり前だ! 少なくとも大学の工学部で勉強した人達が時間をかけて導く解ではない。 鉄道の車両で行われる打音検査とは訳が違うのだ。 結合構造が均一で整列した鉄等の金属は叩けば均一な連続した周波数成分を持った打音波形が観測出来る。 ピアノとか打楽器などがそうだ。 これにヒビとか緩みがあれば、周波数成分と波形の異なる不連続な共振波形が発生する。ましてや、アンカーボルト(鉄)、接着剤(樹脂)、コンクリートが混ざったら、元々の音がどうなんだろうか? 非常に複雑な周波数成分と波形が混在して、単純な金属の時の様に聞き分けられるものでは無い筈だ。 やはり測定器でキチンと測定し、本来こうあるべき共振周波数、その波形、レベル、時間、作業者をログした上で第三者が判定する仕組みが必要だ。 即ち定量的、かつ記録が残り管理が行える測定方法を行うということだ。 

何の為にトンカチ検査なんてやってたの? それにトンカチでは寝惚けて検査しても誰も結果について疑問を持たない。

中日本高速のエンジニアには優秀な人がいると今でも信じているが、何で問題提起しないの? 全く腹が立って仕方がない。

 

B   これも同じく【ここで私の やじうま的な私見を述べます】項目(1)で心配していた事そのものだ。 多分トンネルの設計者は、実際に車が通過するトンネルの中に入ったことが無く、予め設定された条件の中で机上の設計を行ったとしか思えない。 トンネルと言う密閉された空間の中での振動、気圧の変化、それを増幅する共振現象について「考慮しなかった」とは言わせない。 大型車の場合、車本体からもエンジンとか排気から発生する振動は大きなものだ。 通過する際の気圧の変化は打撃に等しい。仮に1u/Kgの衝撃でも 1000uで1トンだ。 長い宙釣り天井の場合は更に大きな値となる。 こんなことは素人でも心配することだ。

 

C   この表現は甘すぎる。中日本高速だけではないが、人命を預かる現場の保守作業はキチンと管理されていなければならないのに、手抜きもいい所だ。 次のステップでは経営陣の責任を追及し、起訴されなければならないと思う。

あまり、愚痴を書いていても仕方が無いが、限られた範囲で優秀なエンジニアでも、本来追求されるべき「安全」に対しては、部分的な計算を行い設計は出来るがその前提条件となる、様々な要素(パラメータ)を考慮する能力に欠けている傾向がある。 工事現場には有能な現場代理人はいるが、それは予め作成された設計図面と、スケジュールコントロールを遵守する範囲でしかない。 狭い範囲で優秀な人間は沢山います。しかし原発もそうだが、今の日本では本当に安全管理を考え、実行(構築)し、維持管理を行う一連の流れを体系化し、それを強力に推進出来る人材の育成が急務であると強く願って止みません。    

究極のプロジェクトマネジメント制度なのかも知れません。  愚痴はここまでで我慢します。

 

-------------------------- 管理人のコメントはここまで。 以下は報道と国交省のレポートからの抜粋です。-------------------------------

 

 

(1)時事通信 528()233分配信

【当初から耐久力の余裕不足=ボルト設計施工に問題―笹子トンネル事故・国交省調査】

中央自動車道上り線の笹子トンネル(山梨県)で201212月、9人が死亡した天井板崩落事故で、天井板のつり金具を支えるアンカーボルトの設計や施工に問題があり、設計荷重に対して34倍の余裕を持たせたとされていた耐久力が、実際には当初から不足していた可能性のあることが27日、分かった。国土交通省が調査報告書の骨子案をまとめ、28日午後に開催される有識者調査・検討委員会に提出する。

事故原因はこのほか、ボルト接着剤の劣化や中日本高速道路(名古屋市)の点検が不十分だったことなどの複合的要因が考えられるという。

国交省や関係者によると、笹子トンネルでは、トンネル最上部のコンクリートに開けた穴に、接着剤などの入ったカプセルを挿入した上で、ボルトを押し込んで接着させていたとされる。設計上、1本のボルトにかかる荷重は約12トンで、耐久力には34倍の余裕があるとされていた。

しかし国交省の調査で、施工の仕様書と完成図でボルト穴の深さが約2センチずれていたことが判明。実際に56カ所を調べた結果、9205センチとばらつきがあり、接着剤が十分に拡散されていないものもあった。

同省はこれらの影響もあり、特に負荷のかかる天井が高い場所の一部で、完成当初から耐久力の余裕分が不足していた可能性があるとしている。 

 

(2) NHK News Web 528 415分配信

【笹子トンネル事故 換気の風圧でボルトに負荷か 】

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130528/t10014885881000.html

 

笹子トンネル事故 換気の風圧でボルトに負荷か

 

中央自動車道の笹子トンネルの事故で崩落した天井板などを固定していたボルトには換気による風圧で設計時の想定の2倍以上の力がかかっていたとみられることが、国の事故調査委員会の分析で新たに分かりました。調査委員会は28日、設計や施工、それに点検の不備などが重なって事故が起きたとする報告書の骨子を公表する方針です。

中央自動車道の笹子トンネルでは去年12月、換気のために取り付けられていた天井板が崩落して9人が死亡する事故があり、その後、天井板や金具をつり下げていた接着剤で固定するタイプのボルトが数多く抜け落ちているのが見つかりました。
国の事故調査委員会が分析したところ、換気によって天井付近に生じる風圧で現場付近のボルトにかかっていた力は、設計時に想定された力の最大2.5倍程度だったとみられることが新たに分かりました。
これは設計上、ボルトにかかる力が均等になっておらず、天井板の上を左右に仕切る「隔壁板」という板にかかる風圧が十分考慮されていなかったとみられるためだということです。
さらに車両が通過する際に生じる風圧もボルトに影響を与えた可能性があり、その回数は、トンネル開通以降の35年間でおよそ700万回に上ると推計しています。
調査委員会のこれまでの調査では、ボルトの接着剤が劣化して強度が落ちていたことや、トンネルを管理する中日本高速道路がボルト部分の詳細な点検を10年余り行っていなかったことなどが分かっています。
調査委員会は、天井板やボルトの設計や施工、それに点検の不備など、複数の要因が重なって事故が起きたとする報告書の骨子をまとめ、28日、公表する方針です。

 

 

3)国土交通省 ホームぺージ 529日発表

国土交通省第5回 トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会

 

調査検討課題と資料構成  ←クリックすると検討課題項目PDFを表示

天井板落下に関する調査・検討委員会 報告書       ←クリックすると天井板落下に関する調査・検討委員会 報告全文PDFを表示

出来型の調査を行うため、天頂部接着系ボルトを残したまま覆工コンクリートから採取したコア56本のうち3本について、樹脂内部の状態を走査型電子顕微鏡で観察した。その結果、

ボルトねじ山の周辺、骨材の周辺、覆工コンクリートと接着剤樹脂界面周辺において、無数の微細な内部き裂や空隙が観察された

 

笹子トンネルにおける打音試験では、付着長や引抜強度が所定の値以上であるかどうかまでは把握できないことを確認した。また、CT 鋼を使用していたことがボルト打音試験の良否判定にばらつきを与えた可能性があることが確認された。

別途作成された供試体を用いてセンサー付きの打音試験を実施し、打音(打撃)時の音(振動)や反発力をセンサーにより記録し、分析した結果、打撃時の音(振動)や反発力は、ボ

ルトに作用する張力の影響等様々な条件の影響を受けやすいことを確認した。

 

隔壁板に作用する水平方向の風荷重がCT鋼に伝達され、CT鋼を変形させることにより天頂部接着系ボルトに生じる引張力は、天頂部接着系ボルトの設計において考慮すべき大きさであった可能性が高いこと。 ※ 仮定した条件のもとでは、隔壁に作用する風荷重(横荷重)等が原因で、L断面の天頂部接着系ボルトには少なくとも20kN/本程度の引張力が作用するという計算結果。

現存する範囲の換気運転記録から、供用開始から事故発生までの間に20万回以上の換気装置の稼働・停止とそれに伴う風荷重による発生・停止による繰返し応力振幅があったと推計される。

さらに、経年の繰返し荷重の影響として、換気装置稼働時の風の振動による繰返し引張力振幅、大型車通過時に天井板に与える風圧と負圧作用による繰返し引張力振幅もあったと考えられる。そして、風荷重の変動や大型車通過時の風圧は、CT鋼と隔壁板を締結するボルトの緩みにつながる可能性がある。一旦緩みが生じると、風荷重の変動や大型車通過時の風圧に伴うCT鋼と隔壁板の締結部のがたつきと繰返しの衝撃力に転じる可能性もある。

 

以下の点より、事故が生じたという結果を踏まえれば、中日本高速の笹子トンネル天井板に対する事故前の点検内容や維持管理体制は不十分であったと言わざるを得ない。

点検計画の変更、12年間にわたりL断面天頂部ボルトに対して、ボルトに近接しての目視及び打音が未実施であったことについて、個々にみれば背景があるとしても、天頂部接着系ボルトの状態について明確な裏付けがなく近接での目視及び打音の実施が先送りされていたこと

膨大な数の補修履歴の保存体制が不備であったこと、工事関係書類についても本来保存されるべき場所とは異なる場所から見つかる等、個々の施工や点検、維持管理にて得られた情報が点検計画等の維持管理に適切に反映できていなかったこと

 

まとめ

本事故は、通常の供用状態下において、道路構造物が原因となり、多くの死亡者・負傷者が生じた我が国において例を見ない重大な事故と認識。

本報告の趣旨を踏まえ、各道路管理者が直ちに再発防止策を講じることを期待する。

􀂾 接着剤の長期耐久性については、今後多方面にて調査研究がなされることを望む。

􀂾 今回の教訓を踏まえ、点検要領の整備、設計基準の改訂が着実に進められることを望む。

􀂾 各現場における構造物の経年変化、並びに、点検の実施計画、計画を変更した場合にはその経緯等に関する情報が組織内で共有・継承されるように、特定の技術者や点検員が定期

的に当該構造物の点検に携わるようにするなど、補修履歴等が確実に記録・保存される仕組みの構築やマネジメントの実施がなされることを望む。

今後、国並びに各道路管理者は、以上を教訓に確実な維持管理等に係わる仕組み、実施体制の整備を図っていくべきである。

 

以上